実演家の権利-ミュージシャン、俳優、ダンサーの権利(2)-

(事例1)

私の娘は高校でダンス部に所属しています。顧問の先生に頼まれたとかで、今度、小学生向けのダンス教材用DVDに他の部員数名とともに出演することになりました。説明会の後、保護者のもとには出演を承諾する旨の契約書のブランクが送られてきました。内容を確認したところ、DVD制作者に対して出演者の「著作権法上の一切の権利を譲渡する」との記載があります。この「一切の権利」とは、どのような権利なのでしょうか?また、その権利を譲渡してしまうことで、何か問題が生じたりはしないでしょうか?

(事例1)において、「ミュージシャン、俳優、ダンサーの権利(1)」の1)~6)までの「一切の権利」が、DVD制作者に譲渡されるとどのような不都合があり得るでしょうか。

DVD制作者が「一切の権利」を譲り受けると、出演者の許諾を得ることなく、DVD制作以外の目的にも映像を利用できるようになると考えられます。ひょっとすると、ネット配信をすると言い出すかもしれません。

一方、出演者が今回の出演を引き受けたのは、小学生向けのダンス教材用DVDを制作するという目的のためです。後になって、インターネットに動画を流すということになったら、「それは話が違う」と言いたくなります。出演者は、「目的外の利用」であるとして、動画をアップしないよう求めることになるかもしれません。

こうなっては両者の主張がぶつかりあうことになり、何のために契約書を作ったのかわかりません。先ずもって、自己の権利を譲渡する際、実演家は慎重であるべきでしょう。また、契約書には「一切の権利」のようなおおざっぱな書き方をするのではなく、契約当事者の権利・義務をきちんと記載するのが望ましいと言えます。解釈に食い違いが生じないようにしておくべきです。

ところで、上記(事例1)のように出演者が未成年の場合、義務教育課程の児童・生徒であれば就学を優先、生放送や演劇などライブ出演の際の出演時間(年少者の場合は、22:00~翌5:00は就労禁止。児童の場合は、20:00~翌5:00は就労禁止。)、撮影や収録現場における拘束時間、暴力シーンなど公序良俗に反する表現がある作品への出演における特段の配慮など、法令やガイドラインの遵守について記載があるかも確認しておくべきでしょう。