相続やM&Aのとき、著作権はどうする?

 原則、著作権を譲受したときには「著作権譲渡の登録」をしなければ第三者対抗要件は具備されません。これまで相続やM&Aといった一般承継のときには、この登録は不要とされていました。ところが、2019年7月1日の改正により、遺産分割や相続分の指定などの相続による法定相続分を超える部分についての著作権等の移転や会社分割などの一般承継による著作権等の移転については,登録しなければ第三者に対抗することができないことになります。

 不動産登記制度と比べて、これまで著作権登録制度が積極的に利用されてきたかと言えば、そうとは言えないでしょう。不動産の場合、所有権を移転したときには登記をするでしょう。「登記はするものだ」と広く一般に認識されています。ところが、著作権の場合、そうではありません。著作権の価値は、はっきりしないことも多く、価値評価もされません。そのため、わざわざ手間と費用をかけて登録をするインセンティブが働かないのでしょう。

 また、著作権は財務諸表に計上されないため、会社分割や合併の場面では、その管理は後回しにされがちです。それでも一般承継の場合には、「登録不要」とされていたので、二重譲渡の問題が生じることはありませんでした。しかし、これからは承継した著作権を登録しないでいると、二重譲渡の問題に巻き込まれるリスクを常に抱えたままの状態でいることになります。第三者から見れば、誰が著作権者なのかがはっきりしない状態ということです。今後は、承継した著作権について、それぞれリスク評価、価値評価を行い、著作権登録をするかしないかの判断をしていくことが必要になるでしょう。

 一方、ライセンシーの立場で考えてみても、「著作権譲渡の登録」は重要であると思われます。著作物の利用許諾を得るにあたって、登録をせず、リスク対策をしない著作権者に対して高額の利用料を支払うことができるでしょうか。ただでさえ、現行の著作権制度の中ではライセンシーの立場は不安定だと言われています。 著作権を有するのが、ライセンシーが著作権者だと信じて利用料を支払った相手ではなく、別の第三者であるなんてことになったら大変です。

 今日、IT関連、ゲーム関連の企業などは、中小企業であっても外国の企業と直接取引することは当たり前になっています。制度の目的や内容はそれぞれですが、日本以外にも著作権登録制度がある国は少なくありません。そうした外国の企業からは、なぜ自社の保有する著作権を登録していないのか、本当に著作権者なのかと疑念を抱かれてしまうこともあるようです。外国企業との取引の場面に限らず、著作権の流通という観点からも、「著作権譲渡の登録」をはじめ、著作権登録制度を利用する機会は今後増えていくのではないでしょうか。